13番目の恋人
それから、もう一人、私の自然に笑顔が向けられる人の元へと来ていた。自覚すべきは、彼はこの会社の常務だということ。

「おー、小百合ー、何か忘れてないか」

そう言う彼こそ、私が自分のただの秘書であることを忘れているのだろうか。

「いいえ、常務」
今日のスケジュール管理は抜かりなかったはずだ。今日に限らず今週も大丈夫だ。

「テーブル、いつ届くんだ?」

あ、すっかり忘れてた。

「その件につきましては、今報告しようと思っておりました。この週末には届くかと」
しれっと言うと、俊くんが眉をピクリと動かす。忘れてた事はバレてるんだけれど。

「土曜、日曜どっち」
「ど、土曜デス」
「何時」
「午前中」
「何時!」
「時間の詳細までは……」
「次、連絡なければ、おじさんに電話するからな」
 お父さんへ告げ口されたら困る!

「……報告します、必ず!!」
「よろしい」
「はあ」
思わず、ため息で返事をしてしまって慌てて口を押さえた。

「お前は、人を信用しすぎるからな。俺は決して、ただの過保護で言っているのではない」
「じゃあ、何よ」
「親心だ」

……どう違うのだろうか。だけど、きっと引いてはくれないだろうし、話題を変えようと思った。

「そ、そうだ、今朝、あの人と会ったよ、好きになってはいけないあの人!」

……しまった。何でよりによって、室長の話しをしてしまったのだろうか。俊くんの顔色がサッと変わった。さっきより、険しくなった気がして、より一層口を押さえなきゃならない話題を出してしまったのだと気づいた。
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