13番目の恋人
一呼吸置いてドアをノックすると、返事も待たずに中に入った。彼女が出て行ったのだから、中には彼一人だろう。
 
「何だ、お前らドアの前で賑やかだな」
「いや、挨拶をね、ちょっと」

 さっきの紙に書かれた事を聞けるくらいの間柄であったので、俺は訊くことにした。
 
「さっきの、彼女が持っていた紙。何だよ、あれ」
「あー、見たのか?」
「たまたま、目に入ったんだよ。“こいつだけは絶対ダメ”だなんて書かれてたら気になるだろう」
 「あはは! あれ、見ちゃったか」
悪びれることなく笑う彼に、俺に見られても困る事ではないらしい。
 
「小百……香坂さんにね、恋人を作って欲しくて。あー、ちょうどいい。お前からも意見くれないか?」
  そう言って、俊彦は先程彼女が持っていたのと同じ事が書かれた紙を俺に手渡した。
 ……彼女に恋人を作ってほしいと、言ったか?婚約者に、恋人を世話するのか?意味がわからない。

「どうだ?」
渡されたものに目を落とす。ただ、名前が書かれただけの紙、だ。
「どうだ、とは?」
「人間性に問題のない男を選んだつもりだ」

 大して面識のない男性もいたが、だいたいは問題ないと思う。だが、そんなことではない。
 
「……何を考えてるんだ、お前は……」
「自由な恋愛をしたいみたいそうだ。それなら良い男を選んでやりたいだろ」
 なに食わぬ顔で俊彦はそう言った。
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