13番目の恋人
 再び静寂が訪れ、どうやらその話は終わった様だった。恐らく、翌年3月になれば父と兄の経営する会社に私の席が確保されるのだろう。

 ……当然、“身内”だと公表するだろう。私はため息を吐いて、それから、もう一度吸った息を止めた。

「それは、嫌」

 みんなが、食事の手を止めて、私に注目した。

「あの、だって、私……一度くらい誰も私を知らないところで頑張ってみたいの。この家の娘、としてじゃなく、一人のOLとして」

「……いいんじゃないか」父親がそう言った

「何とかする」兄がそう言った。

「いや、だからね、お兄ちゃん、お兄ちゃんが何とかするんじゃなくて、私が……」

「だから、何とかするって、言ってるだろう?」
「自分で……」
「ああ、自分でな。誰もお前を知らないところでな」
「25歳になるまでに結婚はしなさい」

 祖父がそう言ったせいで、私の就職の話はそれ以上話せなくなった。元より、あの兄のことだ、何か言っても聞き入れてはくれないだろう。
 そして、もう一つ問題が出て来てしまったではないか。

「え、お祖父ちゃん、結婚って言った?」
「ああ、25歳までに」

 今時そんなの早いよ!と、言いたかったのを呑み込んで、ぐるりと順に家族の顔を見ていったが私に同意してくれる人は、期待できそうになかった。
< 7 / 219 >

この作品をシェア

pagetop