13番目の恋人
常務となると、予定がびっしりで、とてもタイトだ。それに加えて、口頭で約束を取り付けたりしちゃうもので、私はパニックになってしまう。そこ、予定入ってる!とか。
優先順位、よく万里子さんに言われる。
 万里子さんは落ち着いて対処して、とても格好いい。
「社内の予定は、少し移動出来たりするから、臨機応変に」
「はい」
「常務、今回のクライアントは若くておしゃれなクリエイティブ系の経営者さんなので、そのネクタイ、ナイですから。そんな色似合うのねずみ男くらいですからね。こっちに付け替えて。ブランドモノなら格好いいという思い込みがダサイです」
 
……予定を必死に調整出来ないか考えてる後ろで、万里子さんが常務をめった切りにしている声が聞こえた。
 
先週まではそうでもなかったけれど、今週くらいから明らかに全体がピリピリモードだ。
 
 野崎さんのチームも例に漏れず、フロアで見かける事もほとんどなかった。もっとも、私もこのバタバタの渦中にいてはそんなに余裕もなかった。だけど、この忙しさの中、万里子さんは
「ワクワクしちゃう」と、言った。この人、本当にすごいなと思う。
「全部こなせた時の爽快感たらないわよ、焼き肉いきましょうね、終わったら」
 
……肉食だ、とても。

「ちょっといいお肉屋さんね!」
 
それでもプライベートでは、しっかり体を鍛えているんだろうな。万里子さんの時間の使い方は天才的だ。
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