新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
「なんでも、いきなり顔も見ないでこの屋敷にたった一人呼び出されたうえ、御主人様は会おうとせずだそうだ。俺たちも令嬢に、なるべく接するな、とさ。令嬢は部屋にこもって一人で食事させられたとか…普通食事は別室でお付きがいるもんなんだが…」

(だからなのね…執事さんがあの時不思議そうにしてたのは…)

 娘はすぐに朝の執事の様子を思い出した。

「それは…気の毒です…」

「だよなあ!何をお考えなのか、御主人様はなぁ…!」


 少しすると執事がやって来て言った。

「シェフ、お嬢様はあまり食欲がお有りでないそうです。申し訳ないが夕食は召し上がらないとのこと…。リンはシェフと、別館移動前に夕食をとってください。では」

 伝えに来た執事が行ってしまうと、

「本当に気の毒だなあ。そんな扱いじゃ食欲も無くなるだろうな…!」

 シェフは本当に気の毒だというようにため息を付いた。

(それはそうよね…食事なんて二度も食べられないもの…。でも、一人で食べなくて済む…!)


 二人で用意した、主人と屋敷の他の者たちの夕食を運んでもらった後、娘はシェフとともにまかないを夕食に摂った。

(やっぱり自分が手伝ったご飯は美味しい…!しかも、シェフと楽しくおしゃべりをしながら、なんて…!…今日の朝の時より、ずっと…)
< 11 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop