新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
 娘はシェフに指示されるまま野菜を切り、皿に料理を盛り付けたりをした。

「お前は筋がいいな、助かるぞ!」

 シェフは一息つきながら椅子に座った娘の頭をグリグリと撫でた。

(昔はお父さんも、頭をよく撫でてくれたっけ…)

 彼女は充実感と嬉しさに喜んだ。


「ここはなぜシェフ一人なのですか?」

 主人のディナー準備をしながら、娘は尋ねる。

「この屋敷自体、使用人は少ないからな…御主人様は信用した人間以外長く置こうとしない。お前も頑張って、御主人様に気に入ってもらえるようにな!」

 そう言われ彼女はなんとか笑って聞いていた。

(…私はきっともうすぐ追い出される…。信用どころか、最初から嫌われているし…夜には知らない人が見張りに来るし…。でも、少しでも役に立ったと思ってもらいたい…結婚は本当はしたくないけど、せめて少しは役に立ってから…)

「しかしなあ…」

 シェフがいきなり言った。

「昨日来たっていう候補令嬢、ありゃ気の毒だな…!」

「な、なぜですか??」

 娘は自分の事を言われ、内心、心臓が飛び上がりそうになった。

「リン、お嬢様の顔を見たか!?」

 彼女はその質問に、慌てて首を横に振る。
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