新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《5 表》
「…部屋に一日中引きこもっていた割に、グッスリじゃないか…」

 声が聞こえて目を覚ますと、昨晩も来た男がまた、自分の寝ているベッドのそばに来ていた。

「…!」

「なんだ、声も出せないほど驚いたのか?」

 娘が急いで部屋の明かりをつけると、男は顔をすぐに逸す。

(え…?)

 しかしすぐ、男はじっと娘の顔を見つめた。

「…あの、何か…?」

「…。」

男は何も言わず、娘の顔だけを見つめている。

(どうしたんだろう…?…それにしても、言葉の割にずいぶんきれいな人だったんだ…)

 昨夜はあまり灯りもなかったため気づかなかったが、眼帯をして顔は半分隠れてはいるが、男は大分整った顔をしていることが分かった。

「…お前」

「は、はい…」

「…帰らなかったんだな。…なぜ帰らない?こんな思いをしてまで」

(あ…お嬢様として、花嫁候補として、だよね…?)
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