新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
 娘はしばらく考えてから言った。

「…ご主人様に、必要無い人間だと思われているのが悲しいんです…。花嫁になんかなれなくてもいい、私で役に立てることは無いか考えて、やってみたいんです…」

「…。」

 男は娘の言葉に唖然としていた。

(そっか…この人にとって私は、ただのお飾りのお嬢様だから…)

「見せてみろ」

「え?」

「…昨日のテーブルクロスをだ」

 娘は昨晩から手付かずのテーブルクロスを手渡した。

(あ…この人からしたら、私一日引きこもっていたことになってるのに…!)
「あ、あの…」

 娘の声にも反応せず、男はまたじっとクロスを見つめ、黙っていた。そしてしばらくしてクロスをそっと置くと、

「…またくる」

 そう言って部屋の隅に消えていった。


「…頑張らなきゃ…あの人にも認めてもらいたいから…」

 男が去ってその後、娘は懸命にテーブルクロスを縫い、もう一枚代わりのものも縫い始め、そしてまた夜が明けた。
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