新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《8》
 屋敷での生活は自由では無かった。

 彼女は主人にも内密のまま、執事との取り計らいと約束で令嬢姿では夕方の暗くなった頃以外、部屋の外を出歩かないようにした。

 新人メイドの“リン”はなるべく他の者とも遭わぬよう厨房のみの手伝いで、執事の送り迎え付き。

 たちまち屋敷内で、引きこもりの令嬢とともに、人見知りな新人メイドの噂までもが立ってしまう。

 それでも彼女は喜んでいた。

 昼間は厨房でシェフの手伝いをし、皆が別館に移動したあとに男が来る。
 彼は寝る前まで、彼女がささやかな夢を語りながらテーブルクロスや他の裁縫をするのを穏やかに眺めていた。


 そして何日か経ったある日の夜。

「コウさん、私、やっとここに来て半月が経ちました…」

「…そうだな…」

「…ご主人様は…私に…会って下さいません…」

 娘の言葉を聞き、彼は下を向く。

 娘は悲しかった。
 今まで何度も、なんの為にここにいるのかと自分に問い、ここの為にと自分なりにやってきたが、それはメイドとして。

 しかし新人メイドの“リン”にはおろか、一日中部屋に引きこもっていると思われる令嬢に主人は無関心なようで、一度も様子を見には来ない。

 分かっていたこととはいえ、一度気付いた事実に心が折れそうになる。

 娘は下を向き、震える声を必死に抑えようとした。

「…私なんて…やっぱりご主人様にとっては…」
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