新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《9》
 次の日の朝食後、執事が突然彼女に声を掛ける。

「お嬢様…御主人様がお呼びなのですが…」

「え…?」

 執事は言いづらそうに続ける。

「それが…“リン”を呼べとのことで…」

「…!!」

「…申し訳ありませんが、今一度だけメイドとして、私と共に御主人様のもとへ来て頂けますか…?」

 だいぶ不安だった。
 メイドとして主人のもとへ行くのはこれで2度目。1度目以降、主人には会っていない。
 それにしたって、どちらの姿にしても主人の方から会おうとしてくれたことなど無かったのだから。

「…わ、分かりました…」

 まして屋敷外にまで知られるあんな事態になったあと。
 逃げられるはずもなく、もう受け入れるしかない。

「…ではお嬢様、私は、いつも通りに朝礼の為に皆を出払わせておきます。1時間後にまたお伺いいたします、では…」

(なんで今更…何のために…?…もしかして…)

 不安の募る中なんとか支度を済ませ、執事が居室の戸を叩いた頃には覚悟を決めていた。

(全部ご主人様に話して、皆さんに謝って、ここから出ていこう…。仕方無いの…私ができることなんて、あとは無いんだもの…。誠心誠意、謝ろう!ご主人様からすれば思惑通り、気に入らない令嬢がいなくなる…。メイドのふりをして、噂になって迷惑を掛けて、罰を受けても仕方が無いんだから…)

「…ではお嬢様…いえ、“リン”、こちらへ」

「はい…」
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