新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
 来て半月、訪れるのはたった3度目となる主人の部屋。

「…入れ」

 3度とも変わらぬ、冷たい主人の声。

「失礼いたします、御主人様」

「失礼いたします…」

 二人が部屋の中に入り変わっていた事、それは部屋に客人がいることだった。

「ウィングス様…いらっしゃられたのですね…」

 執事も来たのを知らなかったという客人は、主人とあまり変わらぬ年齢程の見た目の、高貴な服を着た若い男だった。

「いや突然で済まないが、面白い噂を耳にしたのでね」

 黙っている主人の隣にいるその男は、人懐っこそうな顔に楽しげな笑みを湛えている。

「…なんでも、ここ数日でメイドの“リン”と引きこもりの令嬢が、どうやら似ているらしいという噂が立っているという。そこで、この男が面白がり、リンを引き取りたいとまで言っているのだ」

 淡々とした主人の言葉とは裏腹に、娘は下を向いたまま愕然とした。

(そんな…もう、そんな話にまで…。それに、どうして私を…)

 その間にも客人の男は娘に歩み寄る。

「君がリンだね?そんなに下を向いて…恥ずかしがりなのかな?愛らしいね…。噂のリリシア嬢は、ほとんど自宅からも外に出なかったんだが、見た目もなかなか私好みで愛らしいんだ。私は一度だけ見たことがあるから知っているよ」

 客人の男は楽しげに話し、チラリと主人を見やって、さらに言った。
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