新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
「??その話が何だと言うんだ?リリシア嬢や、ここにいるリンと何か関係があるというのか??」

 戸惑う男の言葉に、主人は呆れたように笑った。

「脳天気な奴だ、まだわからないのか?…それがこの娘だ。本当の名は“リリィ”。私の、花嫁候補だ」

「!!」

「な、何を馬鹿な…この娘はメイドじゃないか…!」

「ご、ご主人様…なぜ…」

 主人は混乱し、慌てる娘をそっと抱き締めた。

「!!?」

「言っただろう…俺と一緒にと、お前と共にいたいと…」

 確かに言われた。
 しかし、そう言われたのは放浪の庭師だと言った男。

「…え…まさか…そんな…」

「全く、ここまでバレないとは…。皆も揃いも揃って、鈍感なものだ…」

 主人はまた呆れたように笑った。
 すると、ぼんやりとした口調で男が言う。

「…まさか令嬢嫌いの君に、そんな趣味があったとは…」

「え??」

 娘は何のことか分からず首を傾げる。

「…言っていろ。だが分かっただろう、この娘は私の花嫁候補だ。メイドのリンも、もういない」

「…だな。まさかメイドの姿をさせた令嬢だったとは、私も思わなかったさ。そこまで君が令嬢というものが嫌いだったとはね…。まあ仕方ない、ではまた」

「…。」

 来客の男は、軽い足取りで部屋を出ていった。
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