新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《10》
 呆然とする執事と娘を近くの椅子に座らせると、執事はいつになく冷たい声で主人に言った。

「…恐れながら御主人様、我々のいない夜にお嬢様の居室に行っておいでだったのですか?お嬢様にまさか…」

「…すまない、コーダ…」

 主人はバツが悪そうに謝罪。
 娘は慌てて擁護する。

「い、いいえ…執事さん、ご主人様は私に酷いことはしていません…!様子を見に来て下さっていただけで…」

怒っているらしい執事に懸命に返す娘を見て、主人は少し笑った。

「お前は本当に正直で、気取っていなくていいものだ」

 それを聞いた執事はため息を付く。

「…そうですか、それならば良いのですが。では、私はこれで。お嬢様にもしっかりと謝罪していただき、これからの事を。それでは」

 執事はまた無表情で、二人を残し出て行った。

「…コーダはお前をよほど気に入ったようだな…」

「ご、ご主人様…」

 穏やかだった主人の顔は、また真剣な顔つきに変わり、彼女に向き直る。

「…ずっと、死んだ両親の意思に縛られていた。貴族らしく、誇り高くと。だが私は嫌だった。候補として来た令嬢も、すぐに追い出してやるつもりだった…」

「…本当に、ご主人様…貴方がコウさん…」
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