新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
「ここは元々、俺のもう一つの部屋だ。一人きりでいたい時、自分らしい時間が欲しい時に使っていた」

「…そうだったんですね…ありがとう、毎晩きてくれて…嬉しかったです!私、“あなた”が好きです…!コウさんは私の心の支えだったから…コウさんがご主人様の本当の姿なら、私はどっちも好き…!!」

「ありがとう、リリィ…」


 そのとき、部屋の外からノックの音。

「…誰だ?」

「執事さんかもしれない、私が開けますね」

 娘が戸を開くと、シェフが驚いた顔で立ち尽くしていた。
 シェフは彼女の姿を見つけると喜びと驚きの混じった声を上げる。

「…リン!!」

「シェフ!!」

「心配したぞ!お前が何も言わずに辞めちまって、俺が何かしちまったんじゃないかと…」

 シェフは初めて会った日にしたように、彼女の頭を嬉しそうにグリグリと撫でる。

「シェフ…。いえ、シェフは何も悪いことはしていません!…実は…」

「リン、そんなことより何をしているんだ?お嬢様の部屋で…。俺は軽食を、コーダ様に代わってお持ちしたんだが…」

 主人はシェフの声を聞きつけ、戸の隙間から顔を覗かせる。

「…ああ、シェフか」

「御主人様!!」

 シェフは出てきた主人を見て慌てて頭を下げる。すると主人は娘の前に出て、先程とは変わって、表情を引き締めて言った。

「この娘は私の花嫁候補だ。今まで良く、リン…いや、リリィの面倒を見てくれた。礼を言う」

「え…」

 シェフはさすがに狼狽える。

「…はい?え〜…リン…は、コーダ様の姪で…でもリリィで…花嫁候補と…。俺が面倒を…あ、リリシア様はどこに行ったんだ…??」

 混乱するシェフを見て、二人は寄り添い楽しそうに笑った。
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