新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《11 表》
「…気になっている事がある。なぜあの男の申し出を拒否しなかった?アイツは町一番の女好きだ。それに、お前が好きだと言った“コウ”と、はなれ離れになっても良かったのか?」

 主人は少々拗ねたように言った。

「…私、コウさんが大好きです…。でも、ご主人様が私を追い出したいほど嫌いなら、全てをお話して出て行かなきゃいけないと思って……」

 娘は泣きそうになりながらそう返した。主人はそっと娘を抱き締める。

「そうか、悪かった…。私は…いや、俺はお前が好きだ…!追い出したりしない…!だからリリィ、俺のそばにいてくれ、ずっと…」

「っ…はいっ!!」

 娘は主人に抱き締められたまま泣いた。


 そしてしばらくして…

「ご主人様…」

「御主人様はもうやめろ、悪かった…。コウ、と呼んでくれ。俺の幼名だ。もう誰も、そうは呼ばない」

「はい、コウさん…!」

「コウ、でいい。それで、なんだ?」

「…え〜と…あの、コウはどうやって、私の所に来ていたんですか…?」

「ああ。では、種明かしといくか」

 主人は娘の手をそっと取った。

「あ…」

「…嫌か?」

「ううん、嬉しいです…!」

 主人は嬉しそうに笑い、彼女の手を取り部屋の奥の本棚に向かった。

「え??」

 いつの間にか本棚の奥に隠し扉が現れた。主人はその戸を開いて細い通路を行き、突き当りで、持っていた鍵を小さな穴に差し込むと、扉が開く。

「あ…!!」

 娘が見覚えがあるのも当たり前。
 そこは自分に与えられていた部屋で、開けた扉は壁にそっくりなものだった。
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