君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~


 忘れていい記憶なんてあるはずない。

 あのとき、私は不思議に思いながらもどこかでそう思っていた。

 でも、今なら公宏さんの言葉はその通りだったと思える。

 こんな想いをするなら、いっそ忘れたままで良かった。

 思い出さなくて良かったのだ。

 男性が怖いということを思い出してしまった私は、無意識に公宏さんを拒絶してしまった。

 体が震えるという拒否反応と激しい動悸。

 病院から帰ったあのときは、優しく触れる公宏さんの手に怯えるような態度を取ってしまった。

 自分でもコントロールが効かない。ただ体が勝手に恐怖を感じて反応してしまう。

 そんな状態の自分に戸惑い焦り苛立ちを感じている中、公宏さんは何も変わらなかった。

 無理しなくていい。ゆっくり、少しずつでいいから。

 あんなに酷い態度で拒絶した私に、そう言って変わらず寄り添ってくれている。


『たとえこの先、無くした記憶を取り戻しても、俺は変わらずそばにいる』


 初めて結ばれたとき、記憶をなくしている私に公宏さんはそう言ってくれた。

 もしかしたら、いつかこうなってしまうことをわかっていて、そんな言葉をかけてくれたと知ると、溢れ出した涙は止まらなかった。

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