姫と魔王の城
「姫、食事だ!」

小鬼は娘に食事を持ってきた。

「ありがとう、ミグー…!」

「死なれたら困るからな!…人間の食べるものに似せてもらったけど、見た目がなぁ…それに高貴な姫には口に合わないかもな!」

小鬼はいじわるそうに笑った。が、娘は全く気にせず、テーブルもない牢の中で手を合わせて食事前の祈りを始めた。そして、一口、食事を口にした。

「…美味しい…」

「え…!?」

「どなたが作ってくださったの?見た目が変わっているけれど、魔物の食べるような料理じゃない気がするわ。きっと一生懸命作ってくれたのね…お礼が言いたい…!」

娘の言葉に小鬼はたじろぐ。

「し、城の、料理長だけど…」

「…お願いミグー、魔王には内緒でその方を呼んでくれない?」

「ま、魔王さまに怒られちゃう…」

「お願い…魔王には私にも内緒にしてほしいけど、お礼が言いたいの…忙しいでしょうし、少しの時間でいいから…」

小鬼は悩んだが、娘の勢いに押された。

「変な姫!」

そういうと、こっそりと地下牢を出ていった。

「…おかしいなあ…高貴な料理なんて、作ってないはずなんだけどな…」


調理場につくと小鬼は、料理長に言った。

「え、え~と料理長…地下牢の姫が、あんたを呼んでこいって…」

一つ目で大柄な料理長は、ピクリと反応した。

「姫、文句カ?俺行ク!」

「え、あ、文句じゃなくてさ…」

料理長は小鬼の言うことを最後まで聞かず、大柄な身体を揺すりながら地下牢へ向かう。小鬼はそのあとを急いでついていった。

「姫、人質ノクセニ、文句言ウノカ!?」

牢の前に着くなり料理長は娘に向かって言った。

「フン、味ダケデモ人間ノ料理ニ近ヅケテヤッタンダ、アリガタク思ウンダナ!」

すると娘は立ちあがり、料理長に頭を下げた。

「こんな美味しいお料理を、どうもありがとうございます…!きっと一生懸命作ってくださったんだと思って、ぜひお礼が言いたかったんです…!私にとって、最後の晩餐かもしれない…でも、このお料理を食べて元気が出ました!本当にありがとう!」

料理長は呆然と立ち尽くした。
文句を言われる可能性はあっても、まさか礼を言われるとは思わず、料理長は素直に喜んだ。

「料理ヲ作ルカラニハ、不味イノヲ出シタクナイカラナ!魔王様ニ雇ワレタ頃ニ、人間ノ料理ヲ食ワセテモラッタ、ソノ甲斐ガアッタ!」

料理長は気を良くして帰っていった。


「姫…変なやつ…ごーもん受けてるのに、おいらに『テアテ』をするし…料理長に礼を言うし…全然気取ってないや…ウワサはあてにならないなあ。」
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