あなたのためには泣きません

言わない強さ

「と、いうことなんだって」

目の前でビールを飲む修一郎に向かい、同じく3杯目のジョッキを傾けながら、尊は報告する。

那智を送り届けて、キレさせた後、コンパから抜け出したいとSOSが来た修一郎に、仕事のトラブルという嘘の電話を入れて、合流した。

那智の涙の理由をざっと説明すると。

「うわ、、、、、なんてピュワ」

と、修一郎がのけぞる。
さっきまで一緒だった那智と同じ年くらいの女性を思い出す。
女性陣があまりに修一郎に攻め寄るので、岡田先輩の機嫌悪い視線に耐えられず、尊にSOSを求めたのだ。

「どんくさいだけだろ」

一刀両断する尊。

「山中って、、、、うちの社員だっけ?」

泣きながら那智の告げた名前に修一郎がうーんと考える。

「あ、わかった。SHCの技術担当だ。俺、会ったことあるわ」

「ふーん。あいつ、SHC担当なんだ。」

「そう、今なんか、新しい部品開発一緒にやってるらしいって聞いてた。けっこう長いよ。」

長いはずだ、と尊は思う


「2年だって」

「は!?」

修一郎が飲んでいたビールを吹く。

「2年もなーんにも言わなかったってこと?そんないい男だったかなぁ。なんかひょろっと背が高くて、いかにも研究職って感じだったような、、、」


修一郎が思い出しているとき、尊のスマホが震えた。香織だ。
後輩のトラブル処理をするから今夜は会えないという(嘘でない)理由で断ったにもかかわらず、帰りに寄れとメッセージが来ていた。
返してないけど。

レスがないことにイラついて電話してきているのだろう。

「どんなけ根性ないんだって話だよな」

という尊に、修一郎は新しいビールをオーダーしようと店員に手を上げる。
さっきからここの店員はいろんな女の子が入れ替わりやってくる。
尊といるとよく起きることで、バックヤードでイケメンが来ているとでもうわさになっているんだろう。私も見たい、と順番がつくようだ。
反応しない尊のかわりに、愛想よく対応するのはもはや修一郎の役目だったりする。

「いや、ちがうんじゃない?強いんだよ。あの子」

「我慢強いって?」

「っていうより、一緒に開発してて、きっとその山中って男の状況みてるんだと思う。何がしたいか、何がしたくないか。今どんな気持ちか。」

「じゃあ、自分が好かれてるか、そうじゃないかくらいわかるだろ」

「自分のことなんて考えてなかったんじゃねぇ?そいつが幸せかどうかが大事で、理由が問題じゃないんじゃない?」

修一郎の分析に尊は黙った。

母親でもあるまいし、そんな盲目的な好意あるだろうか?大人の男女で。

会えるだけで幸せで。一生懸命だった。

泣きながら言った那智の言葉を思いす。

と、またもや香織からの着信がきた。
尊はあからさまに舌打ちをして、スマホをとると

「2年とは言わないけど、もうちょっと黙ってくれるとありがたいんだけどな」

といいつつ、「もしもし?」と、耳に当てながら外へ出て行った。





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