浮気 × 浮気

.
.
.

「ごめんなさいね、総務の貴女に付き添いを頼んでしまって」


「いえ…」


「総務課長さんから貴方が優秀だと伺ったものだから、お願いしたいと思ったのよ」


車を運転しながら助手席に緊張して座っている私に、営業部の前澤(マエサワ)さんがそう声をかけてきた。

見るからにベテランの40代くらいの女性だ。

こんな人と一緒に取り引き先に行って、逆に迷惑をかけないかどうか心配だけど、何とか自分に出来ることはやり切ろうと意気込む。


ーー課長曰く、前澤さんと一緒に契約を結びに行く予定だった方が、熱を出して急に会社を休んでしまったらしく……。

その方の代理として、その取引先の資料を毎回作成していた私が任されることとなってしまった。

もちろん何度も何度も断った。…なのに、「資料毎回作ってるし、先方の情報の大体は頭に入っているだろう?」なんて無茶な理由で、半ば強引に指名された。


本当に、とんだ災難だ。私には営業が出来るほどのコミュニケーション能力なんかないのに。


「大園さんはただ座っててくれたら良いからね」


なんて言われてほっとしつつも、内心やっぱりドキドキしている。他会社の方とお話をするなんて初めてだから。

< 175 / 236 >

この作品をシェア

pagetop