浮気 × 浮気


明里が事故に遭ったあの日。木嶋に、明里とはもう会わないでくれと言ったのは、明里を木嶋に取られるのが怖かったからだ。

このままもし木嶋が明里と一緒にいれば、絶対に明里は木嶋を好きになると…そう確信している自分がいたからだ。


本当は分かっていた。明里のそばにいていいのは、もう俺ではないことを。明里が求めているのは、木嶋だということを。


だから、明里が木嶋を忘れてくれていたのはとても好都合だった。

これなら何も無かったかのようにして、またもう一度明里と始められると思った。


思ったのに……明里が1番助けを求めている時に現れるのは木嶋で、この俺じゃない。男に絡まれた時の事だって、俺が聞かなきゃ明里は話そうとすらしなかった。

ーーそして、今のこの状態も。


傘を忘れたのであろう明里に傘を傾けたのも、抱き上げたのも、全部俺じゃない。

明里の目には今、木嶋しか映っていない。

明里は俺に気づかないまま、木嶋に抱き寄せられ俺から遠のいていく。

それはまるで、心の距離まで離れていくようで。


足は鉛のように重く、視界は酷く滲み、歪んでいる。

乾いた頬を生温い液体がスっと伝った。

ただ突っ立って追いかける事すらできない俺は、とてつもなく情けなくて最低で、どうしようもなくバカだ。


.
.
.
《秋本 陸side END》




< 188 / 236 >

この作品をシェア

pagetop