浮気 × 浮気


そうしてようやく噴水が見えてきた時、その近くで女性が座り込んでいる様子が遠くからでもわかった。


見覚えのある鞄、そしてスーツ。
もしかしてあれは、明里……?!


そう気づいた俺は、信号が青に変わった瞬間明里向かって全速力で走り出した。


しかし…………


水色の小さな傘を持った男性……いや、木嶋暁が明里に傘を傾け、しゃがみ込んだのだ。

俺は思わず走っていた足を止め、その2人を突っ立ったまま見つめた。


明里と木嶋は長く見つめあったあと、木嶋によって明里は抱き抱えられる。

初めは暴れていたくせに、後半はしれっと抱き上げられたままで少し微笑んでいる様子も伺えた。


まるで心臓が握りつぶされたかのような痛みに襲われる。苦しくて、痛くて、たまらない。


俺は、うすうす気づいていた。

明里が記憶を無くす前から、木嶋と明里がかなり仲が良かったことを。木嶋は本気で明里が好きで、明里も木嶋に惹かれ始めていたという事も。

それはもう俺には止めることの出来ない事実で、それを決定的に裏づけたのは、明里が木嶋についての記憶を全て失った事だ。

木嶋と山下雪がグルだと知って、明里は唯一信頼していた木嶋にも裏切られたと相当なショックを受けたのだろう。

< 187 / 236 >

この作品をシェア

pagetop