婚約破棄をして乗り換えた元彼と妹と私の幸せ【現代、短編】
「え?そんな、酷い。柚芽が作ったクッキーが食べられないっていうの?そんなにひどい味?」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとアレルギーが」
 元カレが腕に現れた赤い発疹を柚芽に見せる。
「酷い、アレルギーって、見ただけでもぞっとしてぶつぶつが出るっていうこと?柚芽の作ったクッキーそんな、もう見たくもないくらいまずかったっていうの?」
「い、いや違うよ……そうじゃなくて」
「だって、食べたのリンゴのクッキーだよ?林檎アレルギーなんて聞いたことないよ」
「いや、確かに林檎にはアレルギーはないけど」
「それに、柚芽知ってるもん。前一緒にケーキ食べに行ったよね?普通に食べてたよね?小麦粉とか卵とかアレルギーがあったら食べられないでしょ?アレルギーだって嘘ついてまで食べたくないんだ……」
 ホロホロと涙を流し始める柚芽。
「ごめんね……私がお菓子作りが下手なばかりに……もう、嫌いになったよね?」
「い、いや、そんなことない、あ、た、食べるよ、食べるっ」
 元カレが慌ててクッキーを口に含んだ。

★そのころ柚芽の姉★
「うわぁー、またか……」
 ちらかった台所で呆然と立ち尽くす。
「昔っからずっとそうだ。柚芽は手作りお菓子を渡す自分が大好きなんだよなぁ……」
 それだけならいい。それだけなら。よくある乙女の姿だ。
 だが、柚芽は始末が悪い。
 とにかく、作ったあとのかたずけは一切しない。
 乾燥したクッキー生地のこべりついたボウルも泡だて器。
 粉まみれになったテーブルに流し。何をこぼしたのかガスレンジには薄白い液体。
 ガスの噴き出し口をふさいでいるように見える。分解して洗わないといけない。
 バターを溶かした器に、スプーン、リンゴを切った切れ端は床にも散乱。
「ちゃんと片付けなさい!片付けられないならもう作るな!」
 と、何度も柚芽を注意した。
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