離してよ、牙城くん。
あの日、わたしとはじめて出逢った牙城くんは。
いまのように、すごくすごく心がボロボロだった。
自分を責めて、でも泣けなくて、どうしようもなく辛かった牙城くん。
それでも、わたしの手を取って、前を向いてくれた。
わたしのとなりにいてくれた。
わたし、それだけですごく幸せだよ。
十分だよ。
わたしが突然大きな声を出したからか、牙城くんはビクッとして、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「……牙城くんは、情けなくなんかない。わたしがこうなったのも、牙城くんのせいじゃないよ」
牙城くんは、自分に自信がなさすぎるの。
だめだよ、きみは、とってもステキな人なのに。
「牙城くんが、うんとたくさんの人に愛されてるから。それは、とてもステキなことなんだよ。
それに、わたしは、牙城くんのためだったら、傷ついてもかまわない」
「百々ちゃ……」
「──── だまって、牙城くん」