俺とキス、試してみる?
なんて考えてムッとしている自分に気づき、苦笑いしてしまう。
これではまるで、私がヤキモチを妬いているみたいだ。

「ん?」

視線に気づいたのか、彼が私の方を見て眼鏡の奥で一度、まばたきをした。
瞬間、傍にあったクリアファイルを掴んで顔を隠す。
これじゃバレバレだと思っていたら案の定、すぐに後ろからファイルを奪われた。

「いま、俺のこと、見てただろ?」

怖くて後ろは振り返れない。
小さく縮こまり、机の上に正解を探す。

「見てない、見てない」

「……お前の考えてたこと、当ててやろうか」

頭上から降ってきた声で、びくりと身体が固まった。

「……俺とキス、したい」

熱い吐息が私に耳朶をくすぐる。
おそるおそる見上げると、レンズ越しに目のあった彼が右の口端だけを上げてにやりと笑った。

「当たりだろ」

「いや、違うし」

口では否定しながらも、こんなに熱い顔じゃ誤魔化せない。

「素直じゃないな」

彼の手が私の脇の下に入り、強引に立たされた。

「えっ?
は?」

「ここじゃさすがにマズいだろ」

私の肩を押し、彼は歩いていく。
連れてこられたのは給湯室だった。

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