わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 私の名を呼ぶ宮燈さんの声が耳に残っている。後ろ髪を引かれるってこういう事なのかな、これからどうしようかなと考えたけど、頭の中が全然整理出来なかった。

 エントランスで私を呼び止めようとした宮燈さんの声は真剣だった気がする。必死になって追ってきたのかなと思うと嬉しかったけど、すべて終わってしまいそうで怖くて振り返ることが出来なかった。今は現実を見るのが一番怖い。

「よし! しばらく考えるのやーめよ!」

 朝っぱらから混乱して、ちょっと脳が疲れてる。頭を空っぽにして車窓から外を眺めていると、よく晴れていたので、冠雪している綺麗な富士山を見ることが出来た。

 大きい……。霊峰と呼ぶに相応しい山だなと感動しつつ、ふとこのまま逃げてしまおうかなと思った。岡山の実家だとすぐに捕まりそうだから、どこか遠くへ行ってしまおう。チケットは現金で買ったから足はつかないはず。

 そういえば、宮燈さんが品川駅までついてきたことがあったなあと思い出して少し笑った。もう半年以上前のことだけど、鮮明に覚えている。突然キスするなんて変な人だと思ったけど、やっぱり変な人!
 京都と岡山を往復もした。あの時、帰りはずっと手を繋いでいた……。

 東海道新幹線の最高時速は約275km/h、こんなに速いのに、通路をスタスタ歩けるくらい安定して走行してるなんて本当に凄い。在来線なんて80km/hでガッタンガッタン揺れてる。レールが違うんだろうなあドクターイエローって引退するんだっけ、しないんだっけ? とどうでもいいことを考えながら、やっぱり宮燈さんと別れるなんて嫌だなあと思うと涙がとまらなかった。

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