わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

08. 橘部長の秘密保持契約

 グラバー園は、幕末、日本の近代化に貢献したスコットランドの貿易商人トーマス・グラバー邸の敷地を整備した広い公園。旧グラバー邸以外にも、旧リンガー邸や旧オルト邸などの西洋建築内に当時の様子が再現されていて、随所が博物館のようになっている。斜面にあるから、一番上まで登って、降りていくのが順路。

「ここ! ここに来たかった!!」

 順路の始まり、てっぺんの建物である旧三菱第二ドックハウス。池があり、鯉がたくさん泳いでいる。ここで餌を買って、鯉の餌やりをしたかった。
 ハウスの入口にカプセル自動販売機が置いてあり、カプセルには鯉の餌と「鯉占い」が入っている。画期的過ぎる。
 嬉々としてカプセルを開けると、紅白の鯉のイラスト。何だか縁起が良さそう!
結果が気になったけれど、手にした餌をすでに鳩に狙われていたので、おみくじはコートのポケットにいれて、先に餌をまくことにした。
丸々と太った鯉が、口を開けてガボガボと水面で餌を奪い合う姿は、やっぱりエキサイティング! これで二百円ってコスパが良すぎる。面白いけれどやり過ぎたら鯉さんの健康によくないので、私は二回で我慢した。

 それから、かの有名なグラバー園のハートストーンを独りで探したが、皆が写真を撮っているのですぐにわかってしまった。


「三菱財閥の相談役とかカッコイイなぁ。あとキリンビールの基礎を築くとか、グラバーさん色々凄すぎ」

 確かに、女子高生にとってはたいして興味ない人物かもしれない。案内を読みながら、修学旅行ではグラバー園そのものより、園を出た通りにあるお土産屋さんで盛り上がったなあと思い出していた。

 朝が遅めだったので、展示を見学したあとは園内のカフェでゆっくり休憩することにした。軽食をとり、カステラとコーヒーのセットをオーダーしてのんびりする。
ポケットの「鯉占い」の事を思い出したので、椅子の背にかけていたコートからそれを取り出した。
折りたたまれた紙を開くと、占いの結果が日本語・英語・韓国語・中国語で書いてある。

「紅白はラッキーカラーコンボなんだね! えっと……『この旅行をキッカケにあなたの人生が素晴らしいものになるでしょう』……」

どうかその人生が、宮燈さんと伴にありますように……と俯きながら祈っていると、テーブルに置いていた端末が振動した。見れば宮燈さんからで私はお店の方に断って外に出た。深呼吸する。空気が冷たい。

「こんにちは」

 私が電話に出たことに驚いたのか、宮燈さんが沈黙した。
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