わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 帰国後、私は京都から東京へ引越をした。泊まっていただけの頃には分からなかった相違点がたくさんあって、同居を始めた私と宮燈さんは、毎日喧嘩ばかりだった。私達は年も離れているし、生活のペースが全然違うから、お互いの妥協点を見つけていくのに時間がかかった。

 私達はいくつかルールを決めた。

・対等なパートナーである
・お互いの部屋には許可なしに入らない
・リビングは共有スペースだから私物を置かない
・家事は分担
・予定は共有
・喧嘩してもその日のうちに仲直りする 等々
 
 油断すると宮燈さんはすぐ私の部屋に来るのでそう決めた。家の中にストーカーがいるって大変!
 最初に線引きしとくに限る。予定も一方的に把握されていたので、私も宮燈さんのスケジュールを、教えてもらえる範囲で共有することになった。


 宮燈さんとの同居生活にも慣れてきた三月下旬、最後の内定者研修で入社に関する書類も書いた。研修が終わって、採用担当の林さんから呼び止められた。

「き、清川さん……というか橘さん……?」
「はい?」
「これ、いいの?」

 林さんは「これ」と言って、私の住所や氏名を申告した書類を示している。勿論、そこには橘部長と同じ住所が記載されていて、家族の欄には配偶者として橘宮燈と書いてある。

「はい! いいんです!」
「……そうかー。やっぱりって感じだよ」
「私も、林さんは気づいてるかなーと思ってました。黙っててくださって、本当にありがとうございました」

「騒ぎになるだろうけど、一過性だろうから気にしないでね。もし、誰かに何か言われたら、いつでも相談して。清川さんは縁故じゃなくて、ちゃんと選考して採用された人だよって証言するから」

「ありがとうございます。やっぱり林さんは頼りになるお兄さんですね!」

 林さんは何だか照れていたけど、本当にいい人だと思う。採用担当って新卒の私達から見たら、やっぱり一番身近で憧れる存在。私もいつか採用担当になってみたいな。でも、私の志望は海外事業所・インド。いきなり海外はないから、一体どこに配属されるんだろう。とても楽しみ。
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