わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
私が騙されて妊娠して、いやいや結婚するんじゃないのか、と心配していたらしい。
「お母さんは許さんけえね、妊娠、出産は命懸けなんじゃけえ。結婚前に孕ますやつは顔がえかろうが無責任なクズじゃ」
「大丈夫じゃ言うとろうが。私は人を好きになったの初めてかもしれん。じゃけぇ、ようわからんけど……宮燈さんとは一緒におりたいて思うんよ……」
私がそう言うと、ようやく少しだけ母が安心した顔をした。
父と私は、私が橘部長に釣り合わないと心配していた。
母の価値観は逆だった。母から見れば橘部長は「うちの子」を連れ去ろうとする悪い大人。橘部長が「私に最良の相手かどうか」を心配してくれていた。
「ありがとう、お母さん」
「けど、あの人、全然笑わんね」
「笑わんて有名らしいんよ。氷の美貌じゃて」
「あんたの前では笑うん?」
「…………うん、時々」
それを聞いた母は「あら~」と言いながらにやにや笑った。それからしばらく、母と二人で橘部長について、あれやこれや話をした。
「綺麗な顔しとるけぇね。びっくりしたんよ。ほら、お母さんが好きなあの俳優さんに似とらん? あのーあれ、去年の朝ドラの」
「芸能人のこたぁわからんよ。てか、お母さんはカッコイイ人見たら、いつでもその俳優さんに例えとらんかいのう」
「もーお母さんはねえ、ドラマ見るくらいしか楽しみがねぇんよ」
大学に進学してから、こんなにゆっくり母と話したのは初めてかもしれない。盆も正月も、特別手当がつくから、あえて帰省せずにアルバイトをしていた。たまに帰っても、疲れてる母と長く話す機会もあまりなかった。何だか楽しかった。妹や弟の話もしてもらって、時計を見たら、そろそろ新幹線の出発時刻が近づいている。
橘部長が迎えて来てくれて、母に改めて挨拶をしていた。
母はホームまで見送りに来てくれて、乗り込む前に私を抱き締めて言った。
「好き合うとるならええんよ」
私は「それがね、お母さん。この人、私のこと好きかどうかはわからんらしいんよ」とは言えなかった。