わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

15. 橘部長を疑うのは

 --結婚を考え直して欲しい

 母から話をしたいと電話がきた時から予感はしていた。だから私は小さな声で答えた。

「どうして?」
「だって、お付き合いしてまだ一ヶ月なんじゃろう?」
「けど会うたのは二ヶ月前じゃ」
「せえけど、短え思わんか?」

 うん、まあそれはそうだ。

「あんたまだ二十一歳なんじゃし、焦らんでもええじゃろ? そりゃあ、申し分ねえ程立派な人なんじゃろうが……。これから、もっとええ人がおるかもしれんし……」

 なにか母がおかしい。申し分ないと言いながら、もっといい人がいるかもと矛盾している。
 手元の紅茶が冷めてしまうくらいの時間、私たちは黙っていた。ためらってためらって、ようやく母が口を開いた。

「あんた、内定欲しさに枕したんじゃねーか?!」

 私は盛大に紅茶を吹いてしまった。
 店員さんが新しいナプキンをたくさんもってきてくれた。むせながら謝って、落ち着いたらまた母が言う。

「おかしいじゃろ、あんたみてーな変人を妻にって」
「いや、我が子を変人って言い方も酷くねえ?」
「もしかして、妊娠しとったり」
「せん! しとらん! ……もう。それでお母さん、なんか変じゃったんか」

「そりゃー心配して当然じゃろうよ。彼氏もおらなんだ田舎娘が、いきなり結婚じゃ言うたら、無理矢理孕まされたんかて心配するに決まっとる」
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