わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 役員面談の待合いに、人事部トップである橘部長が現れたが、予定外だったのか、採用担当の林さんが驚いて恐縮している。
 今日は隙のないように、きっちり髪を纏めてお団子ヘアにしてる私を見て橘部長が言った。

「賢いな」
「……学習くらいします。バカにしてます?」
「いや、可愛いよ」

 無表情でぽんぽん頭を叩かれた。それを林さんが凝視していて、橘部長が立ち去ったあと「か、可愛い……? ……き、清川さんは橘部長の親戚か何か? そんな情報入ってなかったんだけど……」と聞かれた。


「いえ。この前の面談の日に会ったのが初めてです。あの部長さん、全然笑わないですね。せっかく綺麗な顔してるのに」

 私がそう言うと、林さんが橘部長について教えてくれた。もう人事部長の面談は終わっているし、話しても構わないと思ったんだろう。

 人事部長・橘宮燈(みやび)、京都出身かつ京都大学卒。大手銀行(メガバンク)からの中途採用(ひきぬき)
 誰が呼び始めたのか、一部の女子社員からの呼名は「橘の宮」。取締役常務も兼任しているエリートだから、社内外にファンが多数いる。でも、美女だろうが何だろうが、誰も笑顔を向けてもらったことがないそう。

 笑わない氷の美貌の持主、らしい。

 ふーん、変な人~それでよく仕事出来るなぁ、笑わなくても人とコミュニケーションって出来るんだなぁと思いながら林さんの話を聞いていた。



 順番が来て呼ばれ、役員面談が始まった。あくまで面接ではなく面談。区切られた面談場所に座ってると、一人ずつ役員がくる。一対一で面談し、それを五回やって総合評価される。
 五人の役員相手に、一人で立ち向かうのはさすがに疲れる。でも、橘部長にはさっき会えたし、もうこれでいいかなぁ~と思っていた私は、比較的リラックスして面談を受けた。
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