Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 けれど、男を取っ替え引っ替えしながら子ども三人を育てている母親は、俺が金策のために高校を中退した翌年に信じられないがその夢を叶えてしまった。
 国内屈指の不動産会社である紫葉不動産のトップに、見初められてしまったのだ。
 真っ先に俺は結婚詐欺だと疑ったのだが、本気で彼女を娶りたいと俺と双子の三人の息子たちにあたまを下げた紫葉章介の姿を見て、別の意味で取り返しがつかないことになったと痛感するのだった。

 なるべくかかわらないようにしよう、と思っていたのに、結局は義父に出してもらった養育費で調律師の資格を取得していた。フリーランスの調律師として活動するのは難しいからと紫葉グループの子会社の仕事も与えられた。いま思えばはじめから義父は俺を会社組織の重要ポジションに置こうと考えていたのだろう。何を考えているかわからない後妻の息子として遠巻きに見られていたはずが、双子の弟たちにはない慎重さと堅実さなどをいつの間にか評価され、社内で文句を言われることもなくなったのだから。

 ――だけど俺は、会社組織の歯車になるのはゴメンだ。すべてはネメにふさわしい男になるために選択したにすぎないんだ。
< 105 / 259 >

この作品をシェア

pagetop