Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
chapter,3

シューベルトと夏の宝探し《1》




 六月最初の土曜日。
 北陸新幹線が走る線路沿いの国道を外れた、軽井沢駅へ向かう途中のプロテスタント教会で、夫の昇天記念日の祈りはささやかに行われた。
 大正時代より地域住民に愛されたこの教会は結婚式場で有名な軽井沢高原教会や石の教会、遠藤周作の戯曲「薔薇の館」の舞台として有名になった聖パウロカトリック教会などとは異なり、観光ガイドにも載っていないため、門戸を開いているとはいえ、礼拝に訪れるのは大半が地元の人間だ。
 平日はこひつじクラスの幼稚園の子どもたちが教会と隣接している園庭で楽しそうに遊ぶ声が聞こえるが、休日の今日はとても静かで、普段以上に神聖な空気が漂っていた。

「こんなところにも教会があるんだな」
「軽井沢はむかしから外国人が多く暮らしているから、教会もたくさんあるんですよ」
「江戸末期から明治にかけて外国の知識人や宣教師が軽井沢の旧宿場町を訪れていたって話ならきいたことがあります。当時からこの国の夏は異人さんたちを苦しめていて、湿度の低い爽やかな軽井沢が避暑地として選ばれたって」
「そのまま気に入って居着いてらっしゃる方もいますからねぇ。北軽井沢にはロシア正教の外国墓地もあるんですよ」
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