Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 得意げに語るのは添田が事前にお願いしたタクシードライバーだ。別荘をオープン状態にしているため、添田は本日“星月夜のまほろば”で管理責任者代理としてお留守番することになったのだ。わたしは免許を持っていないため、アキフミが車を運転しようかと言ってくれたが、地元の道に慣れていない彼に任せるのは不安だからと添田がドライバーを用意してくれた。ふだんは観光客相手に薀蓄を垂れ流しながら美味しいそばの店などへ連れて行ってあげているそうだ。

「須磨寺の旦那には若い頃世話になってるからね。まさかこんなに若くてべっぴんな奥さんがいたなんて、ほんと隅に置けない奴だなぁ」

 屋敷の外の人間から奥さんとあからさまに呼ばれることは滅多になかったため、なんだか自分ではないような気分だ。隣では窓の景色を眺めていたアキフミは目的地に到着してからも不貞腐れた表情をしている。だってわたしはこの教会の前でウェディングドレスを着て、わけがわからないまま写真を撮ったのだ。

「アキフミ。わたしが須磨寺の妻だったのは事実でしょ。そんなに変な顔しないでよ」
「……わかってはいたが、俺もまさかこんなにダメージを受けるとはな」

 苦笑しながらも強張っていた顔をどうにか戻してくれたアキフミを見て、わたしも頷く。
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