Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 なかでも“星月夜のまほろば”と古くから契約している雲野(うんの)ホールディングスの社長一家は夫だけでなく添田とも仲が良いらしく、遺言書を巡る経緯も向こうの方が詳しいという。死ぬ前に夫が託したと考えれば良いのだろうか……

「ねね子さん」
「はい?」
「このたびは……喜一さんがお世話になりました」

 黒服姿の男性に声をかけられ、顔を向ければ。
 想像していたよりもかなり若い、茶髪に明るい虹彩の男性が悪戯っぽく微笑んでいた。
 誰だろう。こんなに若い知り合いが、夫にいただろうか。

「あの」

 どちらさまですか? という問いかけは、わたしの隣で黙っていたアキフミに遮られてしまう。

「――(つむぐ)。なんでお前がここにいる」
「その言葉、そっくり君に返すよ。レイヴンくん。喜一さんの土地とピアノはいつから君のものになったんだい? たまたま、紫葉グループの金で買い叩いただけだろう? 継承すべき人物が傍にいるのに奪い取ろうとするなんて、正当な権利とは思えないんだけどなぁ?」
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