Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「別荘管理の仕事を添田たちと喜一さんがいた頃のように行うことは可能だろうよ。だけどそんなの淋しすぎるよ。俺、もっとネメちゃんのピアノ聴きたいもの。きっとレイヴンくんも」
「言わないで」
「心の整理がついてない? それでも遺言書を探し出さないと、君は喜一さんの隠している真相に気づけないままだよ」
「真相って……紡さんは、遺言書に何が書かれているのか、ご存知なのですか?」
「知らないよ。だけど想像はつく……むしろ君とふたりではなしができて良かったと思う」
「どういうこと?」
「レイヴンくんには、しばらく隠しておいた方がいい。いまの時点では可能性にすぎないから。けれど、この仮説が事実なら、君が悲観する必要はないんだよ」
「え」

 紡はきょとんとするわたしに、心配しないで、と笑いかける。

「まずは被相続人の戸籍だけでなく相続人の戸籍も調べたほうがいい」
「戸籍?」
「君の本名はほんとうに須磨寺音鳴なのかな?」
「――それって……!?」

 すべてを失ったわたしを軽井沢に匿い、自分が死ぬまで傍に置いていてくれたひと。
 やさしくはしてくれたけれど、最後まで愛しているとは言ってくれなかったひと。
 教会でウェディングドレス姿の写真を撮影したけれど、式は執り行わなかったこと。
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