Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

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 紫葉不動産の御曹司の花嫁探しは会社内外でずいぶん話題になったのか、俺が軽井沢から東京へ降り立った際に迎えに来た秘書の立花が困惑した顔をしていた。紫葉リゾート社長秘書、立花ゆかりは夫が紫葉不動産秘書課を指揮している関係で、俺のお目付け役となったおばちゃん秘書だ。
 見た目は三十代と若作りだが、実年齢は四十代後半のベテランである。夫との間に高校生と大学生のふたりの子どもがいることもあり、俺のこともどこか子ども扱いをしているフシがある。
 子会社の社長秘書となった立花は、連れ子の息子だという俺に同情することもなく、てきぱきと業務を押し付け、俺を今日まで支えてくれている。

「社長が軽井沢に引きこもってしまってから、こちらはずいぶんやりにくくなってしまいましたよ」
「リモートで問題なかっただろう?」
「だけどね、本社から用もないのに女子社員がうちの方に出向してきて、いつ社長はお戻りになりますか、って延々ときかされてごらんなさい。気が狂いそうになるわ」
「そうか、それは申し訳ない」
「申し訳ないと思うならとっとと腰を落ち着けたらどうなんです? 社長が会社からいなくなってもう二ヶ月ですが独身の若社長が全国津々浦々花嫁探しをしているなんて妙な噂でこっちは余計な労力をですね」
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