Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「……わかったわかった。それについては、まぁ、そのうち」
なるべく早いうちにネメと結婚したいと考えてはいるが、遺産相続にまつわる諸々が落ち着くまでは難しいだろう。それに彼女の気持ちや両親の説得もある。そのことがあるから俺は会社の人間にネメの存在をおおっぴらにすることができずにいる。俺が新社長になる際にちからを貸してくれた義姉の元秘書だけは、事情を知っていたふしがあったが、今となっては闇の中だ。
そんなことを思い出す俺の横で、立花はうんざりした表情をしている。
「須磨寺喜一の土地をピアノごと遺産が相続される以前から経費で押さえつけたのを見たときは心臓が止まるかと思いましたよ。まったく、お父上にはなんと説明されたんです?」
「ほしいものがあったから」
ここでいう俺のほしいものは土地でもピアノでもない、ネメだ。
彼女を手に入れるために俺は土地とピアノを押さえただけにすぎない。
けれど立花にそれを言ったところで莫迦にされるのがオチだ。
年代物のアンティークピアノがあったのだろうと新社長の道楽を理解している立花はあー、とうなだれながら釘を刺す。
「……二度目はないと思ってくださいね」
「義父上にも言われた。もうしない」