Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

唯一の愛を乞うシューベルト《5》




 逃げるように帰った紡を庇うネメを見て、俺の怒りは更に膨らんだ。俺は彼女なしでは生きていけないというのに、彼女は俺がいなくても平気なのだろうか。そんなことを感じて応接間で彼女を押し倒し、ネクタイで手首を拘束したままお仕置きをするかのように激しく抱いてしまった。
 俺の醜い嫉妬を身体で受け止め、涙を流しながら意識を飛ばした彼女を見て、やらかしてしまったと気づいても後の祭り。
 寝台に運んで夜着に着替えさせ、何事もなかったかのように振舞ったが、応接間で男女の濃厚な情交が行われていた事実は消せない。いくら愛人契約を結んでいるとはいえ、無体なことをさせるのはどうかと思います、と添田に窘められてしまった。
 その後、俺だけ夕食を食べ、一風呂浴びたが、その間もネメは死んだように眠っていた。屋敷の電気が消される午後十時を過ぎ、添田や家政婦たちも各々の部屋へと戻っていったため、俺も渋々寝室へ戻った。
 あどけない顔で眠りつづけるネメを見ていると、さきほどまでの激しい行為が嘘のようだ。
 けれど、彼女が休んでいる寝室にいたら、眠っている彼女に手を出してしまいそうで怖い。
 心を落ち着かせるためにもピアノを弾きたいが、この部屋のピアノを弾いたら、きっと彼女を起こしてしまう。
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