Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

   * * *


 わたしが観念して彼の求婚に応じた翌朝、ずいぶん早い時間にアキフミの元へ客が訪れた。
 どうやら朝一の新幹線で上野から軽井沢へ来たらしい。若くて綺麗な女性がアキフミのことを「社長」と口にしている。彼女がアキフミの秘書なのだろう。軽井沢で引きこもり状態の社長をついに引っ張り出しに来たのかと覚悟したわたしに、立花と名乗った彼女は妖艶に笑う。

「はじめまして、社長の初恋花嫁さん」
「あなたは……?」
「紫葉リゾート社長秘書、立花ゆかりと申します」

 真っ赤なルージュが印象的な、華麗な女性を前に、寝起きに近い状態のわたしは慄く。
 アキフミはそんなわたしを庇うように抱き寄せ、人前だというのに額にキスしてくる。

「ネメ。心配しないで。彼女は俺たちの味方だ」
「そうだよー、アキフミを連れて帰ろうなんて思ってないから安心して」
「社長の恋煩いが長すぎて本社の方まで飛び火してるんだぞ」

 ひょこっと同じ顔の人懐っこいスーツ姿の男性がアキフミの背後から登場してわたしを驚かせる。彼ら、は?

「……紫葉孝也(タカヤ)と、史也(フミヤ)。俺の双子の、異父弟(おとうと)たちだ」
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