Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

   * * *


 結局、アキフミとほとんど昼ごはんのような遅い朝ごはんを食べてから、ふたりで軽井沢観光をすることになった。
 以前の約束はまだ有効だものな、と言って、彼はわたしに上質な紙袋を手渡してくる。

「これは?」
「せっかくのデートだから、ふだんとは違うネメが見たいと思って」
「……こんなに短いスカート、履けないよ」
「実際に履いてみないとわからないって。それに、ピアニストの頃はもっと露出度の高い服装してただろ」
「あ、あれは舞台の上で映えるだろうからってスタイリストさんが……」
「とにかく。俺のために着てくれ」
「……わかった」

 身体にぴったりとした黒のノースリーブとミニスカートのセットアップ。渋々着替えてアキフミの前へ姿を見せたら、彼は嬉しそうに頬をゆるめてわたしを抱きしめる。彼も麻のジャケットに黒のチノパンというシンプルなコーデに着替えている。ふだんから黒い服を好んで着ている彼が、白いジャケットを着ている姿が新鮮で、わたしも思わず頬をゆるめてしまう。

「アキフミ、ずるい」
「なんだよそれ」
「何着ても似合うのに、隠してた」
「そんなこと言ったらネメだってそうだろ。さすがにまだノースリーブは早いから外に出るときはカーディガンかストールがいるか」
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