Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

   * * *


 クローズド、という看板がかけられた入り口。途方に暮れたわたしは石段の上に腰掛け、ぼんやりビルの合間を流れる白雲を見つめる。

「あれ、ネメちゃん」
「あ」

 ジィンだ。スタッフジャンパーを着ている。どうやらここの関係者だったらしい。

「どうしたの? 学校は? アキフミは?」
「柊が……退学届出して帰っちゃったって聞いたから……ここにいると思ったんだけど」
「来てないよ」
「そっか」

 退学届を出して、どこに行ったんだろう。家に帰ったとは思えない。だから、真っ先にここに向かったのに……いないんだ。
 ジィンはわたしの隣に腰掛けて、わたしの知らない柊の話を始める。彼の家庭環境……離婚して云々とか、学校をやめる理由……要するにお金がないとか、音楽を始めた経緯……玩具のピアノを母親にもらって独学でここまで上達した……とか。

 わたしも、ジィンに色々な話をしていた。柊とグラン・デュオのパートナーになったこと、自分が鏑木壮太の娘であること、練習を通じて柊のことが好きになっていたこと、全部。
 彼は驚かなかった。知ってるよ、アキフミが教えてくれたから、って微笑みを浮かべた。
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