Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

シューベルトと初恋花嫁の秘密《6》




 わたしとアキフミのあいだに割って入ってきたのは、真っ白なワンピースにつばのひろい帽子をかぶった、いかにもお嬢様然とした人物だった。彼女の背後には似たような格好の幼い少女もいて、興味深そうにこちらを見つめている。

「多賀宮、嬢?」
「――ご無沙汰しております、礼文さま。詩とお呼びくださいませ」
「なぜ、ここに?」

 愕然とするアキフミと、淋しそうに微笑む詩という名の女性。
 もしかしたら彼女が、東京で見合いをしたというピアノが趣味のご令嬢なのではなかろうか。
 無表情のわたしを値踏みするように見つめて、詩はふん、と鼻で嗤う。

「なぜですって? 利用者のことくらい把握しなさいよ。昨晩からわたくしは貴方がご執心だという“星月夜のまほろば”に泊まっているのですよ? 伯父さま夫婦と妹の詞ことと一緒に」
「……え」

 利用者のことなど、代表者と使用人数だけで誰が訪れるかなどプライバシーにかかわることは訊ねないのが常識である。だというのに彼女は自分がわざわざ泊まりに来てやったのだから、それ相応の歓迎をしてほしかったわと残念そうにアキフミに告げる。

「すこし古くさい設備でしたが、手入れはされているみたいですね。さすが礼文さまが惚れ込んだコテージ。無事に買い取った暁にはぜひご一緒しましょ」
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