Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
紫葉リゾートが“星月夜のまほろば”を買い取ったら彼女はアキフミと一緒に何をするのだろう。
彼はお見合いを断ったと言っていたけれど、彼女は未だ、彼との結婚を諦めていないふしがある。
わたしが詩のくるくる変わる表情を冷静に観察しているに気づいた彼女は忌々しそうに声を潜め、アキフミに言い放つ。
「だというのに、みすぼらしい能面のような女に油売っているなんて信じられませんわ。仮にも社長たる貴方が使用人のような女とふたりきりで」
「――多賀宮嬢」
カタン、とテーブルにコーヒーカップが勢いよく置かれる。
表情を硬くしたアキフミは、押し殺した声で詩に言い返す。
「貴女との見合いは終わったんだ。俺のプライベートなど知ったところでどうにもならない。彼女を愚弄するな。彼女は俺の大事なひとなんだ」
「……あらそう。それじゃあ、彼女があの“金の生る木”?」
須磨寺が所有している“星月夜のまほろば”に宿泊している詩のことだ、きっと内部事情もどこかで調べてきたのだろう。アキフミが夢中になっている土地が相続の対象となっており、現時点でいちばん近い場所にわたしがいることを。
図星だとばかりに黙り込むアキフミを見て、ふうん、と詩が勝ち誇ったように声をあげる。