Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「あ、こらっ!」
「いい子ぶった演奏だけじゃ疲れるぞ。俺と一緒に弾くときくらい、ピアノで遊べ」
「もうっ!」

 重なり合う指が同じ音を取り合ったり、不協和音を奏でたり、散々な演奏は十分以上つづいた。
 住み込みの家政婦たちがふだんとは異なるがちゃがちゃした音楽に驚いている。
 いまの俺たちは音を楽しんでいた。音楽という単語そのとおりに。

「まあいっか。楽しいから!」

 玄関のグランドピアノが唸らせた音楽が屋敷じゅうに轟く。それはしっちゃかめっちゃかでありながら、たしかに生きている、俺たちにしか出せない生きた音、だった。
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