Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 舞台の中央に設置されたピアノの威圧感に、わたしは何も言えなくなる。この日のために章介がレンタルしたというグランドピアノは、すでにアキフミの手で調律済みだ。
 このホールの主役然とした輝きを放っている黒いピアノの周囲には、いまの季節にぴったりな黄色と橙色の八重咲のひまわりが飾られている。突如設営されたピアノの発表会の会場に、訪れたひとびとは何事かと興味津々だ。

「パーティーの進行状況から、親父がお前をいつ紹介するかはわからない。名前を呼ばれたらすぐ弾けるように準備しておけよ」
「わかってる」

 指定された座席の存在しない立食パーティーなので、わたしとアキフミはピアノ間近にある荷物置き場の傍を選んだ。
 十八時からはじまり二時間ほどで終わる予定だというが、章介からの指示――アキフミの婚約者として認められるためのピアノ演奏――がいつ来るかは知らされていない。
 徐々にスーツやフォーマルドレスを着た客の姿が増え、アキフミも声をかけられては名刺を交換したり、歓談に応じたりしていた。
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