Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 脱がせてまで処置する必要はなかったのにと反発しても、彼に「念には念を入れる必要があるだろ」とスカートのシミができた場所をじっと凝視する。一度だけ身体をつなげた下半身の付け根の部分を見つめられて、ふれられたわけでもないのに身体が疼いてしまう。

「……痕にはなってなさそうだな」
「ね、もういいでしょ?」
「待て。添田に俺たちの新しい服を用意させているから、もうすこし俺にそのうつくしい肌を見せてくれ」
「えっ」

 そんな、新しい服を買ってこさせるなんて、しなくてもいいのに。
 それよりアキフミの前で肌を晒しつづけているいまの状況の方が心臓に悪い。早くタオルを手渡してくれればいいのに。
 会社の支店内で彼がいかがわしい行為をするとは思えないが、濡れた漆黒の瞳で熱心に見つめられていると、自分が淫らな女になってしまったみたいで、いたたまれなくなってくる。

「だが、風邪を引かれても困るか……」
「きゃっ」

 シャワー室の狭い空間で、濡れたスーツを着たままのアキフミが裸のわたしを抱き寄せる。シャワーの音はまるで雨音のようで、彼に包まれているとこそばゆい気分になる。最初の夜のように身体中をまさぐられたわけでもないのに、いつまでも彼に密着しているこの状況に、わたしの身体は震えが止まらない。
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