Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「ネメ? 火傷したのか? ワンピースにもかかってるじゃないか。洗面台……いや、こっちに来い」
「え」
店長から渡された鍵を手に、表情を曇らせたアキフミがわたしを連れて行った先は。
まさかのシャワー室だった。
* * *
熱い緑茶をすこし身体にこぼしただけだというのに、アキフミはわたしが着ていたワンピースを脱がせ、肌に火傷の痕ができていないか確認して、冷たいシャワーを浴びさせる。指先だけちょちょいと冷やせば問題ないと言い張るわたしを無視して、彼は「お前が心配なんだよ」と囁きながら下着まで外してしまう。こんな場所で裸にされると思わなかったわたしは羞恥で顔を真っ赤にしてアキフミを睨みつける。彼はスーツが濡れるのも気にしないでわたしの身体を確認している。
「大丈夫だって言ってるのに……もう」
「赤いのは右手の薬指か。ピアノをやってる人間が痛めてどうする。適切な処置をしないと」
「指をちょっと火傷しただけだよ? スカートにもかかっちゃったのは事実だけど」