秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。


どうして。どうして一番怖い時に、不安な時に側にいてくれないの。


心の中で初めて高人さんに恨み言を言い、恐怖に思わず意識を手放しそうになった時だった。


「──・・・飛翠」


一瞬、時が止ったのかと思った。今一番聞きたい声が、応えてくれる筈のない声が応えたのかと思った。

そうじゃない。これは高人さんの声じゃない。頭ではそうわかっているのに、それでも息が詰まって、鼻の奥がツンとして、どうしようもなく安心してしまう。気がつけば身体の震えは止っていた。

だが、わずかの間の安心感の次に訪れたのは泣きたくなる程の虚無感だ。

「兄と同じ声を聞いて安心しました?」

そう尋ねられた言葉が耳に痛い。
感情の読めないような微笑を浮かべる秋世さんに何と言って応えたらよいのか分からず、俯いてただ唇をきつく噛んだ。


その後も、秋世さんは私が青ざめたり呼吸を荒げたりする度に背中をさすってくれたり、大丈夫だと声をかけ続けてくれた。




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