秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
サウスポーへ



「・・・んっ」



『二週間以内に、この三つの商品のイラストを完成させてください』

そう言って秋世さんに課されたイラストの作成にとりかかっていた時、ペンを握った右手の指に痛みを覚えて顔を歪めた。

初めて自分の右手に違和感を覚えたのは、記者会見の帰りの秋世さんの車の中での事だった。

あの時は痛みもしびれも大したものではなかったし、単に疲れから出た一時的な症状だと思っていた。だからその後も気にする事はないだろうと普段通りに絵を描いていたが、日を重ねる事にその痛みとしびれは大きなものになっていった。

そのせいで、もうあの会見から4日がたったというのに全く仕事が進まない。一つ目のイラストをやっと完成させた所だ。

(・・・ペンを握るのが、痛い)

痛みを増していく右手に参って一旦ペンを置く。

手が痛くてペンが握れないなんて、こんな事初めてだ。

身体をハードに使うスポーツアスリートが身体を壊す事はあっても、大して指の筋肉なんて使わない絵描きである私がどうしてこんな。
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