マスク男の秘密
 マスク男の話題は入学してから数か月したら日常に溶け込み、高2になった今では彼の存在は当たり前のものになった。後輩の1年生たちは年度当初「変な先輩がいる」と噂していたが、それもそれまでのことだ。

そうは言っても、彼はみんなにとってなんとなく気になる存在で、マスクの下がどうなっているのか、みんな知りたいと思っている。マスクの下に何か重大な秘密が隠されているような気がしてならないのだ。誰も彼のマスクの事情を知らないということは、彼と親しい間柄の人間がいないということだろう。

弁当を食べる時でさえ、彼が誰かと一緒にいるところを見たことがない。彼の弁当といえば大概が紙パックの野菜ジュースやゼリー飲料といった、マスクをとらなくても食せるものだから筋金入りである。食が細いのか分からないが、彼の体の線も細い。

「あ、噂をすればなんとやら」

 香月の声にドキっとする。マスク男が大量の本を重たそうに抱えてこちらのほうに向かって歩いてきた。眼鏡はくもり、前が見えないのか足元がおぼつかない。本が重いせいもあるのだろうが。

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